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Selfishly

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pa6 ~The fun is the back 2 ~


スローライフt Pa 6

  ~The fun is the back 2 ~

★ act4   19、12/18



その日は深夜遅くまで、各部署の配置の確認や見直し、
それぞれから上がってくる報告と改善項目を確認し対応していき、
副官とその補佐のエドワードが仮の司令室を出たのは、とうに日付が変わる頃になった。

「エドワード、そろそろ宿舎に戻ろうか?」

鍛えられた軍人とは言え、ここ最近のハードな日々がさすがに堪えているのか、
デュラー少尉が僅かに疲れを滲ませて、まだ必死に報告書を作成しているエドワードに
声をかけてくる。

「う~ん・・・、後少し・・・」

昔よりは、集中している時に声をかけられても気づくように、
心かけるようになったエドワードが、半場上の空な返答を返す。

「こらこら、今日根を詰めすぎても、明日に響くだけだって。
 はい、今日はもうお仕舞。 終わらなかった分は、明日、早めに来て、やろう」

そう告げながら、エドワードが必死で確認している報告書を取り上げる。

「・・・、わかった」

渋々ながらも、顔を上げて手を止めて見上げてくるエドワードの様子に、
デュラーが頷くと、急かせる様に椅子を引いて立ち上がるように伝えてくる。
帰り支度と言っても、特に持ち歩く荷物もない二人は、椅子にかけてあった上着を羽織ると、
戸締りを確認して、部屋を出て行く。

「寒~」

司令部を出ると、冷え込んでいる外気に襲われて、二人して首を竦めて寒さを実感する。

「さすがに12月も終わりに近くなると、夜は冷え込むな」

白い息を上げながら言うデュラーの声に、エドワードも頬を紅くして頷く。

「ほんとだ。 日中は司令部内を走り回っていたから、然程思わなかったけど、
 やっぱり冬なんだよな」

冷え込みの激しい深夜に出歩く者などいないかと思っていたら、各隊の見回りや
警備の者なのだろうか、そこかしこに蒼の軍服を覆う軍用のコートを着た者達が、
街を走り回っている。
そして、それに混じって陽気な声を上げているのは、勤務が終わった軍人達なのだろう。
司令部の近くに点在している酒場からは、深夜と言うのに明るい灯りと
陽気な声が洩れている。

デュラーは、そんな店を見回し、横で歩いているエドワードを省みると、
独りでに小さく頷き、エドワードに声をかける。

「エドワード、軽く夜食を食べて帰ろう。
 夕方も、殆ど食べれないままだったろ?」

デュラーの誘いに、明日の事を考えて瞬間戸惑うが、
身体は正直だ。 先ほどから、漂う香りに刺激されて、空腹を訴えかけている。

「ん・・・、そうだな。 確かに、腹減った」

素直なエドワードの返答に、デュラーは笑い、開いている店の中でも
比較的小奇麗な酒場へと、エドワードを連れて入る事にした。

店内は、温かい空気と美味しそうな匂いが充満している。
深夜に関わらず、殆ど席が埋まっている中を、空いている席に腰を落ち着ける。
軍の者達と飲みに行く時の殆どが同じの、最初にビールを頼むと、
早速運ばれたビールをエドワードに注いでやり、乾杯するようにグラスを上げてみせる。

「えっ、俺、アルコールはまだ・・・」

目を丸くして、注がれたグラスを見ているエドワードに、デュラーは彼が未成年なのを思い出す。

「そうか・・・、君はまだ未成年だったんだな!
 すまない、ついつい他の奴らと飲みに行った時と同じに考えてて。
 まぁ、乾杯の分位は、大目に見ると言うことで」

おおらかなデュラーの言葉に、エドワードも苦笑しながらカップを持つと、
軽く合図をして、口を付ける。

「うー、上手い! やっぱり、仕事上がりはビールに限る」

美味しそうに飲み干しては、手酌で注いでいるデュラーの前では、
苦虫を潰したような表情で、チビチビとグラスを傾けているエドワードがいる。

青年にしては幼い様子のエドワードに、デュラーの笑みも深くなる。

「君の口には合わなかったかな?」

訊ねてくるデュラーに、気恥ずかしそうな笑みを浮かべ、エドワードは
「ちょっと」と控えめな返事を返す。
その反応にも、デュラーが朗らかに笑い声を上げて、今度こそエドワードのお好みに合いそうな
料理のメニューを手渡す。

「君の年齢で、アルコールを嗜まないのも珍しいな。
 結構、今の学生も飲むだろ?」

「そうだろうな、俺も以前一般の大学の時には、結構機会はあったんだけど、
 どっちかと言うと、甘めのアルコール飲料位しか飲まなかったから、
 こんな風に、酒~って感じのは苦手かも」

一生懸命にメニューを眺めながら、店員を呼ぶ。
こんな深夜なのに、妙齢の女店員が働いているのは、この店の家族か、妻なのかも知れない。
混みあう店内を、呼び声のかかった席まで歩いてきて、注文を告げようとしている
エドワードを目にした途端、思わずと言ったように、驚きで目を瞠っている。
本人は、そんな店員の反応には気づかずに、せっせと気を惹いたメニューを読み上げていく。
エドワードの読み上げるメニューの多さに、慌ててメモを取ると、
最後のオーダーを告げ終わったエドワードが、不思議そうに見上げるまで、
惹きつけられるように視線を外せないでいるようだ。

「あのぉ?」

不審そうなエドワードの問いかけに、やっと自分の行動に気づいた店員が、
恥ずかしそうに頭を下げて、席を離れていく。
そんな彼女の行動に、怪訝そうな視線を向けるが、その後はすっかり思考を切り替えたのか、
周囲に居る軍人達の客に、珍しそうに視線を廻らせている。

「プッ!」

と、目の前でいきなり噴出し笑いをしたデュラーに、驚き丸くなった瞳を向けてくる。

「な、なに?」

驚き戸惑っているエドワードの様子に、更にデュラーの笑い声が大きくなり、
状況が判っていないエドワードの困惑が濃く表情に表れている。

「す、すまない」

そう告げながらも、一頻り笑い、笑いを納める為に苦労している相手の様子に、
エドワードは唖然としながら、見守るしかない。

漸く笑いを納めるのに成功したのか、デュラーが喉を潤すと、
笑いで上がった動悸を鎮めるようにして、エドワードに話しかけてくる。

「エドワード、君鈍いって人に言われるだろう?」

唐突な言葉に、要領を得ないエドワードの瞳が丸く瞠られる。

「なんで?」

「いや・・・、なんとなく」

曖昧に返された言葉に、エドワードは首を傾げて考え出す。

「別に、そんな鈍いとか言われる程、俺気を使わない方でもないけど・・・。
 まぁたま~に、弟とか周りの人間に、今のデュラーさんみたく
 笑いながら言われる事は・・・ちょっと有ったかな」

エドワード本人は、その周囲の評価が不満なのだろう。
不承不承の返事に、デュラーが軽く頷きながら、エドワードを観察する。
今は、デュラーに言われた言葉に、不貞腐れているように、
僅かに表情を固くしてはいるが、この青年の場合、それも様になるほど、
綺麗な青年だ。 
『多分、鈍いのは自分の事に関してに限られるんだろうな』
デュラーは、短い付き合いながら、正確にエドワードの性質を掴んでいる。
勤務中は、驚くほどの洞察力と観察力で、周囲に気を配っていたのを知っているだけあって、
鈍いのではなく、自分に関心が薄いのだろう。
しっかりした大人顔負けの能力を見せるかと思えば、歳以上に幼い部分を見せる青年が、
どうして司令官や、直属の面々に可愛がられているのかが、判ると言うものだ。
エドワードは、妙に庇護欲を掻き立てられる存在なのだ。
そうこうする内に、第一弾の料理が運ばれてきた。
途端に、不貞腐れていたような表情が、パッーと明るくなるのに、
デュラーは、悪いと思いながらも、また、笑い声を上げそうになる。

「いっただきま~す!」

嬉しそうにフォークを手に、早速食べ始めるエドワードを見ながら、
デュラーは、笑いをやり過ごすのに、カップを口に付けて、中身を飲み干す。
 
「うん! 上手い!! この店は当たりだな」

満足そうに頬張るエドワードに、「良かったな」と返しながらも、
デュラーは料理には手を付けずに、笑いを堪えながら、ビールばかり
飲み干していく。
何故かと言うと、先ほどから、店員の女性が、嬉しそうにせっせと料理を運びながら、
エドワードに秋波を送っているのだが、本人といえば、料理に夢中なせいか、
顔を上げる事もなく、食べるのに専念しているからだ。

「デュラーさん、食べないの?」

律儀に半分ずつ残してくれているエドワードが、先ほどから料理に手を付けようとしない
デュラーに、怪訝そうに声をかけてきた。

「いや・・・そうだな、頂くよ」

エドワードの薦めに、笑みを浮かべて返し、食事を始める事にした。

8分ほど自分の分をお腹に納めたエドワードが、満足げに残り少なくなった
ビールで喉を潤し、一息入れている。

「しかし、エドワードは結構よく食べるなぁ、どこに肉が付いているのか
 わからない位華奢なのに」

その言葉に、一息付いていたエドワードが肩を竦めて返す。

「そうなんだよな。結構食べてると思うんだけど、縦にも横にも伸びないのが
 俺の悩み」

はぁーと心底、悲しそうに言われる言葉に、「横は拙いだろう」と茶々を入れる。

「いや、横でもいいよ。 もう少し太れ太れって煩い奴がいるからさ」

苦笑しながらの言葉のニュアンスに、デュラーがおやっと思う。

「それは、君の彼女かい?」

苦笑しながらも、嬉しげに語られる言葉を言った相手など、この位の年齢なら、
そうだろうと中りをつけて、告げてみたのだが、どうやら大当たりだったらしい。

驚いたように目を丸くして、次の瞬間には顔を真っ赤にしたかと思うと、
エドワードは、音がするほど首を横に振り、忙しなく両手を胸の前で振って、否定してくる。

「そ、そ、そんな! 彼女とかじゃなくて、ちょっと・・・そう、ちょっと知り合いに
 煩い奴がいるってだけで」

それだけを慌てて言い訳のように言うと、また、思い出したように
忙しなく食事を再開する。

デュラーも、深く追求する事はせず、「そうだったのか、悪かったな、変な事言って」と
流しておく。

その後は、今回の任務の話と明日の準備とスケジュールの打ち合わせになり、
ひとしきり、確認し終わると、明日も早いということもあるので、
グズグズせずに、席を立つ。
会計では、互いに自分が払うと軽くもめた後は、仲良く半分にして
店を出る事にした。

扉をくぐりながら、エドワードが気づいたように振り返り、
席で対応してくれた女性が、レジだった事もあり、

「料理上手かったよ。 ご馳走様でした」

と、満足の為なのだが、満面の笑みを向けて、
素直に感謝の礼を告げて出ていく。
そのエドワードの麗しい笑顔を向けられた女店員は、
花が綻ぶような笑顔を浮かべ、出て行ったエドワードの後姿を見つめている。

『なるほど、天然のプレイボーイなわけだ』

こんな人間が周囲に居たら、自分達のような冴えない男どもは、
悲嘆に暮れる目に合うだろうなと思いながら、出た扉を静かに閉める。

上機嫌に前を歩いているエドワードの後姿を眺めながら、デュラーも歩いていくが、
自分の思いとは逆に、エドワードに対する印象は、良く上がるばかりだ。
最初は、噂しか聞いた事がない鋼の錬金術師の事を、色々と想像したり、
予測したりしてみて、正直、倣岸不遜な天才少年や、周囲にちやほやされて
高慢な天狗みたいな奴ではと思って、組むにも気が引けていた面もあったのだ。
が、実際あった青年は、恵まれた容姿や才能以上に、努力家で勤勉家だった。
長年軍で働いている者でも、あの厳しい叱責や要求には、落ち込むだろうに、
彼は耐え忍び、コツコツと文句、愚痴一つ言わずに勤め上げている。
短い時間ながらもデュラーが、エドワードに好印象を抱くのに十分な要素だ。

『しかも、素直で可愛いときてるからな』

嬉しそうに、今食べている料理の批評をしているエドワードに、
相槌を返しながら、そんな事も思い浮かべる。

大人顔負けの能力を見せながらも、エドワードには驕るところがない。
そして、歳以上に幼い面や、真っ直ぐな性格を知れば知るほど、
人として、魅力溢れたエドワードを素直に好きになっていく。
多分、厳しく叱責している上司も、そうなのだろう。
だから、あえて厳しくしているのだ。
手加減するのは、この青年には失礼な気がする。

「君が補佐に付いてくれて、心から良かったと思うよ」

しみじみと告げられたデュラーの言葉に、エドワードは驚いたように振り返り、
照れたような笑みの後、

「俺も、デュラーさんが指導してくれて、良かった」

と、一点の曇りもない笑みで返してくれる。

副官同士が、友好を深めて宿舎に戻った頃、苛立だしげに1つの部屋のカーテンが
閉められた事は、どんな天才でもわかる事はないままだった。




act 5     19,12/19


早めに待ち合わせていた司令室で、副官二人が今日のスケジュールや、
昨日までの報告を話し合っていると、予想より早めの時間に関わらず、
指揮官のロイが、出勤してきた。

エドワードとデュラーは、額をつき合わすように話していたが、
急なロイの登場に、驚きつつも立ち上がり挨拶をする。

「「おはようございます!」」

そんな二人からの挨拶に、「ああ」と短めの返事を返しながら、
用意されている自分の席に着くロイの様子に、エドワードはおやっ?と思う。
特に取り立てての事ではないが、余り機嫌が宜しくない様子だ。
付き合いの短いデュラーにはわからない程度の、そして、直属のメンバーなら、
今のロイを見れば、皆が心の中で『本日は低気圧ナリ』と電波を交し合う程度には
ロイの機嫌は良くない。
怪訝に思いながらも、心当たりのないエドワードには、
デュラーに本日のスケジュールを告げられているロイの様子を、それとなく窺う位しか出来ない。

「という流れに本日はなります。
 特にご希望や、要請などはありませんか?」

その伺いにも、「別にない」と答えると、エドワードとデュラーでまとめた資料に
目を通していく。
ロイの機嫌には、然程気を使っていないのか、デュラーは了承の取れた進行表をエドワードに渡すと、
必要枚数をコピーして、要所に渡してくれるように指示をする。

その指示に、即座に動いて部屋を出て行ったエドワードを待つ間、
デュラーは受け持ちの仕事をこなすために、自分の席に着いて始める。

「デュラー少尉」

ロイの呼びかけに、返答をしながら顔を上げる。

「はい、何か?」

デュラーの問いたげな視線に、暫く無言の時が流れ、
デュラーは、再度ロイの窺うべきかと考えていた矢先に、
ロイからの言葉を受ける。

「そのぉ・・・、この資料は二人で?」

視線も合わせられずに聞かれた言葉の内容に、気が削がれそうになるが、
もしかしたら、重大なミスでもあったのかと、
「そうですが・・・」と、不安げに返事を返す。

デュラーの動揺を察したのだろう、ロイが慌てて付け加えるように話し出す。

「いや、良く出来ているなと思ってね。
 慣れない副官の仕事なのに、助かるよ」

ロイの褒め言葉に、デュラーもホッと肩の力を抜き、
嬉しそうに返答を返す。

「ありがとうございます!
 でも、それもエドワード、いえ、エルリック少佐がお力添えをしてくれているからです」

本心どうり、嬉しそうに返事を返すデュラーに、瞬間瞳を曇らすが、
「そうか」と呟いたまま、その後に言葉が続けられるようでもない。
デュラーは、ロイが躊躇う様子で口を噤んだのを、少々誤解して、
話し出す。

「エルリック少佐は、本当に良く遣ってくれていますよ。
 慣れない分を、知識と努力で補ってますし、行動力もあります。
 さすが、司令官が後見を勤めていらっしゃるだけはあると、感服しております」

ニコニコと自分のことのように、嬉しそうに伝えてくるデュラーに
ロイの柳眉は曇るばかりだ。

「それに、大変素直で前向きなのも、素晴らしい資質ですよね。
 エルリック少佐が、司令官直属の皆さんにも可愛がられているのが、
 僭越ながら、私にもよくわかりました」

「・・・そうか。 まぁ、不慣れな点も多いだろうから、君が助けて指導してやってくれ」

「はい! 私には身に余る光栄な役目だと思いますが、彼と頑張って副官を務めさせて頂きます」

ロイからの言葉に、誇らしげに返事を返すデュラーに、
ロイは複雑な心境で言葉を聞いていた。
彼の返答にも、話にも、別に疚しいところも、悪い点も当然ない。
上司からの褒め言葉に、奮起するのは、軍人なら当然の態度だ。
そして、今回はエドワードの上司であり、指導は彼の役目なのだから、
職務上、二人で頑張ってもらわないと、困るのはロイの方なのだから。

頭と理性では分別付くようなことでも、感情ではイマイチ駄目なようだ。
ロイは相手に失礼のないように、胸の中だけで嘆息すると、
思考を仕事に切り替えて、手元の報告書を確認していく。

そしてデュラーは、上司からのお褒めの言葉に、更にエドワードと力を合わせて
頑張る事を誓いながら、仕事に精を出していく。

・・・彼は、ロイが躊躇う様子を見せたのは、公私混同するのが嫌な親心だろうと
察して、エドワードの事を話したに過ぎない。
『上官も、お気にされているのだな』と、だから、相手が知りたい事を話したのだが、
親心ならそれで満足したロイの心境が、男心だったから難しくなっていくのは、
さすがに、察する事は出来なかった。

少しの誤解も、忙しい今日の業務の中では、あっと言う間に忙殺されていく。
本番が明日に迫る今日中に、終わらせなければならない事は山ほどあるのだ。
ロイの心中、些細な事ではないことでも、軍の職務の中では、塵よりも小さな事なのだ。


「あれって・・・?」

式典会場の広場に、どんどんと組み立てられている建物を見ながら、
エドワードが不思議そうな呟きを洩らす。

「ん? ああ、あれかい。
 何でも、櫓と言われてる東方の国の建物らしいよ。
 進行の流れ上、今回は総統を含めて軍の高官の方々が、民衆にアピールすると言う事で、
 式典中開放する敷地内で、演説される事になったんだけど、
 あんまり急に決まった事だったんで、建物の建設も間に合わないって事になったんだが、
 あれを請け負う建築会社が、東方の櫓なら短期間で組めるって売り込んできたらしい。
 で、急に建造が始まったんだけど、木材だけの割には勇壮で優美だよなぁ。
 東方の国の家屋は、全部が木か石で作られてるだけあって、
 ああいうのを作るのにも、凝った文様とか作れるそうだ。
 完成の暁には、櫓の表面にはアメトリスの紋章が飾られてるそうだよ」

トントン、ドンデンと騒音を鳴り響かせながら突貫工事で仕上げられている建物を
エドワードは興味深そうに眺めながら、どうにも妙に違和感が感じられるのを
不思議に思っている。

『なんだろう・・・、何か変な感じがするんだけどな』

あそこがここがと言うほど、エドワードも東方の建造物にまでは詳しくない。
始めてみた形だし、組み方なのだろう。
今は装飾もまだ施されておらず、骨組みの木材が丸のまま見える。
建築には詳しくはないが、エドワードの扱う練成に関しては、
同様の事が建築にも応用できるし、逆に応用してもいる。
物質を組み立て建造する方法は、練成でも建築でも同じだ。

が、エドワードが感じた違和感を深く追求する余裕は与えられなかった。
分刻みのスケジュールの中、じっくりと検分するような時間があるわけがない。
デュラーに急かされる様にして、その場を離れて暫くは気になっていたが、
それも、次々と上がってくる報告の対応に追われている間に、小さな疑問も消えていった。



「終わった~!」

全ての資料を纏め上げたとき、思わず二人が声を上げたのは当然だろう。
どんなに綿密な予想や計画を立てても、細々としたトラブルやミスは出てくるものだ。
が、明日の式典に万全を配するためには、その全てをオールクリアーにしておかねばならない。
それが、副官の職務の一つなのだ。
指揮官が、望むべく環境で指揮を取れる状態にし、任務が始まれば臨機応変に
変わる事柄に最高で最速の手筈を整えて、指揮官の指揮に支障がないようにしなければならない。
二人が何度も変更が出るたびに、最初から穴が開くほど睨み続けて完成した計画書は、
最後の誤作動トラブルを処理し終わった後に、漸くピリオドを打てた。
昨日と然程変わらない時間に、漸く帰路につけたが、帰れるだけマシだったのだろう。
当初はデュラーは、最後の詰めの段階では、司令部に連続泊り込みも覚悟していたのだ。

横で、さすがに疲労の色を見せている青年を横目で見る。
黙々と帰り支度をしているが、へばっている程ではないようなのを見て取り、
見かけによらず強靭な体をしている青年に、感心もする。

「君には、感謝しなくてはな」

しみじみと呟かれた言葉に、エドワードが帰り支度の手を止めて見上げてくる。

「いやだって、こうやって宿舎に戻れるのも、君が色々と進行を変えて組んで行ってくれてるからだろ?
 正直、俺一人なら対応しきれないよ」

エドワードが加わってから、上司は副官への注意や確認を放任するようになった。
おかげで、上司自身の仕事に専念できているようでもある。
それも、エドワードの才覚を買っての采配なのだろう。
自分だけの時は、小まめなチェックが入っていた事を考えると、
力量不足を補ってくれていたのもあるのだろう。
軍歴の長い者からすれば、少々悔しいが、もって生まれた才覚も格も、
上司やエドワードと自分とは、違うのだと素直に受け止めも出来る。

デュラーは、良くも悪くも冷静的で温厚な思考の持ち主なのだ。
大隊を率いる能力には欠けるが、環境を整え、人心を察するには適している細やかさがある。
彼と仕事を組んでいく内に、デュラー本人が言うほど、彼がまぐれに副官に任命されたわけではないと
エドワードも思うようになっていた。
まだまだ、経験は浅いだろうが、先を見通した配属なのだろう。

「さて、今日はより道は出来ないから、さっさと帰るか」

デュラーの合図に、エドワードも大きく頷いて立ち上がる。

『いよいよ、明日だよな』

エドワードが正式なロイの部下として任務を全うする日なのだ。
未熟を言い訳にせずに、自分が出来る以上に頑張ってみたつもりだ。
が、どれだけ過程で頑張ろうと、明日の式典が無事に終わらない限り、
努力は無に帰してしまう。
学生の課題なら、過程でも点数を貰えるが、社会はそんなには甘くない。
優か不可か、それは全て結果にかかっているのだ。

寄り道する余裕はないと言う事で、帰り道に店を出している屋台で持ち帰りを買い、
歩きながら食べては、明日の打ち合わせに余念がない。

「とにかく明日が終われば、任務も終了だ。
 今回は、総統の配慮で、終了後各支部の応援部隊を労う意味で
 慰労会も開いてくれるって言うから、その時に元取れるくらい飲み食いしような」

デュラーの言葉に、エドワードも嬉しげに微笑む。
他の士官生達とも、挨拶位で会話する時間もなかった。
見た所では、それぞれの部隊で溌剌としていたから、皆と溶け込んで頑張っているのだろう。
慰労会で合ったら、各自の苦労話も披露されるだろうから、
今から楽しみにしておこう。

さすが、明日、いやもうこの時刻だと式典当日の今日だけはあって、
宿舎に戻っても、煌々と明かりが灯され、忙しなく人が出入りし、たむろって居る。
明日の朝も早めに待ち合わせる二人は、互いの部屋の前で別れを告げて、
短い休息を取る為に、部屋の扉を閉めると朝まで開かれる事はなかった。

「マスタング司令官殿、何か有りましたか?」

打ち合わせにロビーで話し込んでいた者が、部屋に戻る最中に、
廊下に佇んでいる人物を不審に思い目をやると、支部が違う自分でもわかる程の
高名な司令官が所在投げに立ち尽くしている。
上着を脱いでいる事からも、仕事上がりなのだろうが、それにしても何故この階に?
とその兵士が思うのも仕方ない。
高官は、別棟に用意されている高級な官舎に部屋があてがわれていた筈だからだ。
ここの棟は、主に尉官が寝泊りしている。

「いや、少し用があった帰りだ。
 気にせずに行きたまえ」

「はぁ・・」

司令官より行けと言われて、居残るわけにはいかない。
その兵士は、そのまま通り過ぎていく。
ふと、廊下を曲がる時に視線を廻ってしまったのは、人として仕方ない要求だろう。
その視線の先には、変わらず立ち尽くしているロイが、思い悩むように
自身の指の爪を噛んでいるシーンが見て取れたが、余計な詮索は無用だと思い直して、
さっさと自分の部屋へと急いで帰っていく。

勿論、そんなロイの行動を知っているはずもないエドワードは、
手短に入浴を済ませると、寝心地はいまいちの宿舎のベットで、
早々に眠りの中に入っていた。
自分の初の任務にポジションだ。 いくら優秀なエドワードでも、今の彼には
他の者を思いやる余裕も、時間もないのだから仕方ない事だろう。








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